妊活を始めたり妊娠が分かったりすると、これまで以上に毎日の食事や栄養が気になる方も多いのではないでしょうか。
葉酸や鉄、カルシウムなどとともに、妊娠・授乳期の栄養について調べていると目にすることが多いのが、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸です。
DHA・EPAは魚介類に多く含まれる脂肪酸で、フィッシュオイルの代表的な成分としても知られています。
一方で、妊娠中は「魚に含まれる水銀が心配」「サプリメントで摂った方がいいの?」「妊活中や授乳中にも意識した方がいい?」など、いろいろな疑問も出てきます。
特に妊娠中は、単に「DHAが大切だからたくさん摂ればよい」と考えるのではなく、食事全体のバランスや魚の種類、サプリメントを利用する場合の注意点まで含めて考えることが大切です。
この記事では、妊活・妊娠・授乳期にDHA・EPAが注目される理由をはじめ、魚から摂る場合に知っておきたいこと、フィッシュオイルサプリメントを検討するときのポイントまで分かりやすく紹介します。
まず知っておきたい「フィッシュオイル」とは?
フィッシュオイルとは、魚に由来する油のことで、代表的な成分としてDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などがあります。
DHA・EPAは「n-3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)」に分類される脂肪酸です。
オメガ3脂肪酸には、魚介類に多く含まれるDHA・EPAのほか、植物油などに含まれるα-リノレン酸などがあります。
脂質というと「摂りすぎない方がよいもの」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、脂質はエネルギー源になるだけでなく、体を構成するうえでも必要な栄養素です。
大切なのは脂質そのものを極端に避けることではなく、食生活全体の中でバランスよく摂ることです。
DHAとEPAは何が違う?
DHAとEPAはどちらも魚介類に含まれるオメガ3脂肪酸ですが、体内での分布などには違いがあります。
DHA(ドコサヘキサエン酸)
DHAは、私たちの体内では脳や神経組織、目の網膜などにも存在する脂肪酸です。
妊娠・授乳期の栄養についてDHAがよく取り上げられる背景の一つには、このようにDHAが体を構成する脂肪酸の一つであることがあります。
ただし、「妊娠中にDHAを多く摂れば赤ちゃんの知能が高くなる」「学習能力が高まる」といった単純な関係として考えることはできません。
DHAについて研究が行われていることと、市販のフィッシュオイルサプリメントに特定の発達上の効果があることは分けて考える必要があります。
EPA(エイコサペンタエン酸)
EPAもDHAと同じく、魚介類に含まれる代表的なオメガ3脂肪酸です。
DHAとEPAは一緒に紹介されることが多く、フィッシュオイル製品でも両方を含むものが多く見られます。
ただし、DHAとEPAはまったく同じ脂肪酸ではありません。
サプリメントを確認するときには、「フィッシュオイル○○mg」という総量だけを見るのではなく、DHAとEPAがそれぞれどの程度含まれているのかを確認すると製品の内容を理解しやすくなります。
妊活中はDHA・EPAを摂った方がいい?
妊娠を考え始めると、「妊活のために何を食べればよいのだろう」と考える方も多いでしょう。
ただし、妊活中の食生活で最も大切なのは、特定の食品や成分だけに期待することではありません。
主食・主菜・副菜を組み合わせながら、さまざまな食品から必要な栄養素を摂ることが基本です。
妊娠前から食生活を整えておくという意味では、魚介類も取り入れたい食品の一つです。
魚にはDHA・EPAだけでなく、たんぱく質をはじめ、種類によってさまざまな栄養素が含まれています。
そのため、DHA・EPAを「妊娠するための成分」として考えるのではなく、妊娠前から食生活全体を見直す中で意識する脂質の一つとして捉えると分かりやすいでしょう。
「フィッシュオイルを摂ると妊娠しやすくなる」と考えてよい?
これは特に注意したいポイントです。
DHA・EPAを含むオメガ3脂肪酸と妊娠・生殖に関してはさまざまな研究がありますが、そのことから、フィッシュオイルやフィッシュオイルサプリメントを摂取すれば妊娠しやすくなるとはいえません。
妊娠の成立には年齢、健康状態、生活習慣、生殖機能などさまざまな要因が関係します。
フィッシュオイルは不妊症を治療するためのものではなく、妊娠率を高めることを目的とした食品でもありません。
妊活中は特定のサプリメントだけに頼るのではなく、食生活、適度な身体活動、睡眠、禁煙、飲酒なども含め、生活全体を整えていくことが大切です。
妊娠中にDHAが注目されるのはなぜ?
妊娠すると、お母さんの体は胎児の成長に合わせて大きく変化します。
胎児は胎盤を通してさまざまな栄養素を受け取りながら成長していきます。
DHAは脳や神経組織、網膜などにも存在する脂肪酸であることから、妊娠期の栄養を考える際にも関心が持たれてきました。
ここで大切なのは、「DHAは体を構成する脂肪酸の一つである」ということと、「DHAサプリメントを摂れば赤ちゃんの能力が高まる」ということは別だという点です。
妊娠中の栄養はDHAだけで成り立っているわけではありません。
たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど、さまざまな栄養素を食事からバランスよく摂ることが基本になります。
妊娠中も魚を食べて大丈夫?
妊娠中の魚について、「水銀が心配だから魚を食べない方がよいのでは?」と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、妊娠したからといって魚介類そのものを避ける必要はありません。
魚介類は、DHA・EPAを含む脂質だけでなく、良質なたんぱく質やさまざまな栄養素を摂ることのできる食品です。
一方で、一部の魚介類には食物連鎖を通じて水銀が比較的多く蓄積されるものがあります。
そのため妊娠中は、魚を食べないことではなく、水銀濃度が比較的高い魚介類を偏って多量に食べないよう、種類や量に注意することがポイントです。
厚生労働省も、妊婦向けに魚介類と水銀についての注意事項を公表しています。
厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」
また、妊娠前から妊娠中・産後までの食生活については、こども家庭庁でも情報が公開されています。
こども家庭庁「妊娠中と産後の食事について」
妊婦・授乳婦のオメガ3脂肪酸の目安量は?
厚生労働省の食事摂取基準では、オメガ3脂肪酸は「n-3系脂肪酸」として摂取の目安量が設定されています。
現在の基準では、妊婦・授乳婦ともにn-3系脂肪酸の目安量は1日1.7gとされています。
ただし、この1.7gは「フィッシュオイルサプリメントを1.7g飲む」という意味ではありません。
また、「DHAだけを1.7g摂る」「EPAとDHAを合わせて1.7g摂る」という意味でもありません。
n-3系脂肪酸全体について設定された食事摂取基準ですので、食品やサプリメントの商品表示に記載されたDHA・EPA量と単純に置き換えないよう注意しましょう。
授乳中もDHA・EPAを意識した方がいい?
出産後、授乳期に入ってからも、お母さんの食生活は大切です。
母乳には脂質が含まれており、その脂肪酸組成にはお母さんの食事内容が影響することがあります。
DHAも母乳に含まれる脂肪酸の一つです。
そのため、授乳期についても「DHAをどのように摂るか」という点に関心が持たれています。
ただし、ここでも「DHAを多く摂れば母乳の質が高くなる」「赤ちゃんの発達がよくなる」などと単純に考えることはできません。
授乳期も特定の栄養素だけに注目するのではなく、お母さん自身が必要なエネルギーやたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく摂ることが基本です。
魚を食生活に取り入れることも、その中の一つと考えるとよいでしょう。
妊娠・授乳中のDHA・EPAは魚とサプリメントのどちらから摂る?
DHA・EPAを摂る方法として、まず考えたいのが魚や魚介類です。
魚を食べることには、DHA・EPAだけではなく、たんぱく質をはじめ、魚の種類によってさまざまな栄養素を一緒に摂ることができるという特徴があります。
一方で、つわりや食の好み、生活環境などによって、妊娠中に魚を食べることが難しい場合もあります。
また、普段から魚料理を食べる機会が少ない方もいるでしょう。
フィッシュオイルサプリメントは、魚由来のDHA・EPAを一定量で摂取しやすい食品ですが、妊娠・授乳中だから必ずフィッシュオイルサプリメントを利用しなければならないというものではありません。
まず普段の食生活を確認し、そのうえでサプリメントの利用を検討する場合には、妊娠・授乳中でも利用できる製品なのかを商品表示などで確認することが大切です。
妊娠中は「魚の水銀」と「フィッシュオイル」を分けて考える
妊娠中のDHAについて調べていると、「魚には水銀があるから、フィッシュオイルサプリメントの方がよいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、この二つを単純に比較して「サプリメントの方が安全」と考えるのは適切ではありません。
妊婦への水銀の注意事項は、すべての魚介類を避けるよう求めるものではなく、水銀濃度が比較的高い一部の魚介類について摂取量や頻度に注意するというものです。
魚介類にはDHA・EPAだけでなく、たんぱく質などの栄養素も含まれています。
そのため、厚生労働省の注意事項を確認しながら、魚の種類や食べる量に気をつけて食生活に取り入れることが基本です。
一方、フィッシュオイルサプリメントについては、原料や製造方法、EPA・DHA含有量、品質管理などが製品によって異なります。
「魚には水銀があるからサプリメントに置き換える」という二者択一ではなく、それぞれの特徴を理解することが大切です。
妊娠・授乳中にフィッシュオイルサプリメントを選ぶときのポイント
妊娠・授乳中にフィッシュオイルサプリメントの利用を検討する場合には、広告のイメージだけではなく、実際の商品表示を確認しましょう。
1.DHA・EPAの含有量を確認する
「フィッシュオイル1000mg」などと表示されていても、そのすべてがDHA・EPAという意味ではありません。
フィッシュオイルの総量とは別に、DHAとEPAがそれぞれ何mg含まれているのかを確認しましょう。
また、その数字が1カプセルあたりなのか、1日の摂取目安量あたりなのかも確認することが大切です。
2.原材料を確認する
フィッシュオイルだけの製品もあれば、ほかの栄養成分を組み合わせた製品もあります。
妊娠中はすでに葉酸や鉄などのサプリメントを利用していることもあるため、複数の商品を使用する場合には原材料や栄養成分が重複していないか確認しましょう。
3.1日の摂取目安量を確認する
DHA・EPAも、多ければ多いほどよいというものではありません。
商品に表示されている摂取目安量を確認し、「妊娠中だから多めに摂ろう」などと自己判断で量を増やさないようにしましょう。
4.妊娠・授乳中の使用について確認する
サプリメントによって、妊娠・授乳中の利用に関する注意事項は異なります。
商品ラベルや公式の商品情報を確認し、妊娠・授乳中の使用について注意書きがある場合にはそれに従いましょう。
判断に迷う場合には、産婦人科医、助産師、薬剤師、管理栄養士などの専門家に相談すると安心です。
葉酸とDHAは同じように考えていい?
妊娠を考えている方にとって、特によく知られている栄養素の一つが葉酸です。
葉酸とDHAは、どちらも妊娠期の栄養について話題になることがありますが、同じ栄養素ではなく、体内での役割も異なります。
特に葉酸については、妊娠前から妊娠初期にかけて、通常の食品に加えて一定量をサプリメント等から摂取することが公的な情報でも推奨されています。
これは、「妊娠中に注目される栄養素はすべてサプリメントで摂った方がよい」という意味ではありません。
DHA・EPAについて考える場合も、葉酸と同じ感覚で「妊娠したら必ずサプリメントで摂るもの」と考えず、それぞれの栄養素について公的な情報や食生活、自分の状況を踏まえて判断することが大切です。
妊活・妊娠・授乳期は「DHAだけ」ではなく食生活全体を見る
妊活・妊娠・授乳期には、赤ちゃんのことを考えるあまり、「この栄養素を摂らなければ」「この食品を食べなければ」と不安になることもあるかもしれません。
しかし、私たちの体は一つの栄養素だけで成り立っているわけではありません。
妊娠前から授乳期までの食生活では、主食、主菜、副菜などを組み合わせながら、さまざまな食品を取り入れることが基本です。
魚もその選択肢の一つであり、DHA・EPAだけを目的として考えるのではなく、食生活全体の中で取り入れていきましょう。
そして、食事だけでは十分に摂ることが難しい栄養素についてサプリメントを検討する場合には、「何となく体によさそうだから」ではなく、何がどのくらい含まれているのかを確認して利用することが大切です。
妊活・妊娠・授乳中にフィッシュオイルを検討している方へ
DHA・EPAは魚に含まれる代表的なオメガ3脂肪酸であり、妊娠・授乳期の栄養を考えるうえでも関心を持たれている成分です。
一方で、フィッシュオイルサプリメントは、妊娠を成立させたり、赤ちゃんの知能や視力を高めたり、特定の疾病やアレルギーを予防したりすることを目的としたものではありません。
普段から魚を食べる機会が少なく、DHA・EPAを含むフィッシュオイルサプリメントを検討している場合には、EPA・DHAの含有量だけでなく、原材料、摂取目安量、妊娠・授乳中の使用に関する注意事項なども確認しましょう。
特に妊娠中・授乳中は、ご自身の健康状態や食生活、使用している医薬品・サプリメントなどによって状況が異なります。
妊娠中・授乳中に新しくサプリメントを利用する場合は、商品表示や原材料、摂取目安量を確認し、不明な点がある場合には医師や薬剤師などの専門家へ相談してください。
まとめ|DHA・EPAは妊娠・授乳期の食生活全体の中で考えよう
DHA・EPAは、魚や魚介類に含まれる代表的なオメガ3脂肪酸です。
DHAは脳や神経組織、網膜などにも存在する脂肪酸であることから、妊娠・授乳期の栄養との関係についても研究されてきました。
だからといって、「DHAを多く摂れば赤ちゃんの知能が高くなる」「フィッシュオイルを飲めば妊娠しやすくなる」と考えることはできません。
妊娠中も魚介類はさまざまな栄養素を摂ることのできる食品ですが、一部の魚介類については水銀への注意が必要です。
公的な情報を確認しながら、魚の種類や量に注意して取り入れることが大切です。
また、授乳期についてもDHAだけを特別視するのではなく、お母さん自身が必要な栄養を食生活全体から摂ることを基本にしましょう。
フィッシュオイルサプリメントは、魚由来のDHA・EPAを一定量で取り入れやすい食品の一つですが、妊娠・授乳中に必ず必要なものではありません。
魚を含めたバランスのよい食生活を基本にしながら、自分の食生活に合わせて必要性を考える。
妊活・妊娠・授乳という大切な時期だからこそ、特定の成分に過度な期待をするのではなく、正しい情報をもとに自分に合った方法を選んでいきましょう。
【参考情報・ご注意】
本記事は、妊活・妊娠・授乳期の食生活、フィッシュオイル、DHA、EPA、オメガ3脂肪酸などについて一般的な栄養情報を紹介することを目的としています。
本記事は疾病の診断、治療、治癒または予防を目的としたものではなく、特定の食品、健康食品、サプリメント等による妊娠、生殖、胎児・乳児の発達、疾病等への効果を示すものでもありません。
妊娠中・授乳中の栄養やサプリメントの利用について不安がある方、医薬品を使用している方、治療中の方などは、医師、薬剤師、助産師、管理栄養士などの専門家へご相談ください。
参考情報:
厚生労働省「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」
こども家庭庁「妊娠中と産後の食事について」