「がん」と聞くと、「怖い病気」「日本人の2人に1人がなる病気」といったイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
実際、がんは日本人にとって非常に身近な病気です。
国立がん研究センター「最新がん統計」によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性61.1%、女性50.1%。男女とも、おおよそ2人に1人が生涯のどこかでがんと診断される計算になります。
ただし、「がん」とひとことで言っても、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、白血病など、その種類は数多くあります。発生する場所や細胞の種類によって特徴は異なり、すべてを同じ病気として考えることはできません。
また、「ステージI」「ステージIV」「転移」「5年生存率」といった言葉を聞いたことはあっても、それぞれが何を意味しているのか分かりにくいという方もいるでしょう。
この記事では、初めてがんについて調べる方にも分かりやすいように、がんとはどのような病気なのか、どのような種類があるのか、ステージとは何を表しているのかという基礎から解説します。
さらに、日本で多いがんについて最新統計を確認したうえで、後半ではニュージーランドではどのようながんが多いのかも比較します。
日本とニュージーランドでは、よく診断されるがんの種類にも興味深い違いがあります。特にニュージーランドでは、日本では上位に入りにくいメラノーマ(悪性黒色腫)が主要ながんの一つとなっています。
「がんについて何から調べればよいのか分からない」という方が、まず全体像を理解するための基礎知識として読み進めてみてください。
がんとは?まず知っておきたい基本
私たちの体は、多くの細胞によってつくられています。
正常な細胞では、必要に応じて細胞が増えたり、増殖を止めたりする仕組みが働いています。その調節に重要な役割を持つのが、細胞の中にある遺伝子です。
ところが、細胞が分裂するときなどに、偶然、遺伝子に変化が生じることがあります。また、喫煙、ウイルスや細菌などの感染、一部の化学物質、放射線など、外部からの要因によって遺伝子に変化が生じることもあります。
こうした遺伝子の変化が積み重なることで、細胞の増殖を適切にコントロールできなくなり、細胞が無秩序に増え続けるようになる場合があります。
このようにしてできた細胞のかたまりが腫瘍です。
ただし、腫瘍がすべて「がん」というわけではありません。
「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」は何が違う?
腫瘍は、その増え方や周囲への広がり方などによって、大きく良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。
良性腫瘍は一般に、周囲の組織へしみ込むように広がったり、離れた場所へ転移したりする性質を持ちません。
一方、悪性腫瘍では、異常な細胞が増殖しながら周囲の組織へ入り込む「浸潤(しんじゅん)」や、血液やリンパなどを介して離れた場所へ広がる「転移」が起こることがあります。
この悪性腫瘍を広い意味で「がん」と呼びます。
がんが発生・進行する大まかなイメージ
正常な細胞
↓
遺伝子に変化が生じた細胞が現れる
↓
複数の遺伝子変化が徐々に蓄積する
↓
細胞の増殖が適切に制御されなくなる
↓
腫瘍ができる
↓
一部の悪性腫瘍では周囲への浸潤や、離れた場所への転移が起こる
ここで大切なのは、遺伝子に一度変化が起こったからといって、すぐにがんになるわけではないということです。
多くのがんでは、一つだけではなく複数の遺伝子変化が長い時間をかけて蓄積し、正常な細胞からがん細胞へ変化していくと考えられています。これを多段階発がんと呼びます。
年齢とともに多くの種類のがんが増える背景の一つにも、こうした遺伝子の変化が長い時間をかけて蓄積していくことが関係すると考えられています。
参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」
更新・確認日:2026年6月17日
正常な細胞から複数の遺伝子変異が蓄積し、腫瘍、浸潤、転移へと進む過程などが解説されています。
がんそのものが人から人へ「うつる」わけではない
一部のがんには、ウイルスや細菌への感染が発生リスクと関係するものがあります。
例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん、B型・C型肝炎ウイルスと肝がんなどの関係が知られています。
しかし、がんという病気そのものが、咳やくしゃみ、接触などによって人から人へ感染するわけではありません。
「感染が一部のがんのリスク要因になること」と「がんそのものが感染すること」は、分けて考える必要があります。
がんにはどんな種類がある?
がんというと、胃がん、肺がん、大腸がんなど、主に「発生した臓器の名前」で呼ばれるものをイメージしやすいでしょう。
しかし医学的には、どの臓器にできたかだけではなく、どのような細胞から発生したかによっても分類されます。
「がん」と「癌」は厳密には少し意味が違う
普段は「がん」と「癌」をほぼ同じ意味で使うこともありますが、厳密には少し違います。
国立がん研究センターでは、ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指し、漢字の「癌」は主に上皮細胞から発生する悪性腫瘍を指す言葉として説明しています。
つまり、白血病や肉腫も広い意味では「がん」ですが、通常は「白血病癌」「骨肉癌」とは呼びません。
大きく分けると「癌」「肉腫」「血液のがん」などがある
| 分類 |
主な発生場所・細胞 |
代表例 |
| 癌(carcinoma) |
皮膚や臓器の表面・粘膜などをつくる上皮細胞 |
大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、前立腺がんなど |
| 肉腫(sarcoma) |
骨、筋肉、脂肪などをつくる細胞 |
骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫など |
| 造血器腫瘍 |
血液、骨髄、リンパ組織などの細胞 |
白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など |
胃がんや肺がんなど、多くの固形がんは「かたまり」をつくります。
一方、白血病のように、一般的な固形腫瘍のような「しこり」をつくらずに血液や骨髄の中で増えるがんもあります。
そのため、「がん=必ず体のどこかに腫瘍のかたまりができる病気」ではありません。
参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」
更新・確認日:2026年6月17日
がんを、上皮細胞から発生する「癌」、骨や筋肉などから発生する「肉腫」、白血病・悪性リンパ腫などの「造血器腫瘍」などに分類しています。
転移した場合、がんの名前はどうなる?
初めてがんを調べるときに、少し分かりにくいのが「原発」と「転移」です。
例えば、胃で発生したがん細胞が肺へ広がった場合、それを新しく発生した「肺がん」と呼ぶわけではありません。
この場合は、胃がんが肺へ転移した状態として考えます。
がんは基本的に、最初に発生した場所である原発部位を基準に分類されます。
これは治療を考えるうえでも重要です。どこへ転移したかだけではなく、「もともと何のがんだったのか」によって、がん細胞の特徴や治療方法が異なるためです。
ステージ0・I・II・III・IVとは?TNM分類も解説
がんについて調べていると、「ステージI」「ステージIII」「ステージIV」といった表現をよく目にします。
ステージ(病期)とは、がんがどの程度広がっているのかを示す指標です。
一般に、原発腫瘍がどの程度広がっているのか、リンパ節へ広がっているか、離れた臓器への転移があるかなどを組み合わせて判断します。
TNM分類とは?
多くの固形がんで使われている代表的な方法がTNM分類です。
T(Tumor)
最初に発生した原発腫瘍の大きさ、深さ、周囲への広がりなど
N(Node)
原発部位の近くにある領域リンパ節への転移の有無や広がり
M(Metastasis)
離れた臓器などへの遠隔転移の有無
このT・N・Mの組み合わせなどから、ステージが決められます。
ただし、すべてのがんで同じ基準が使われるわけではありません。
同じ「ステージII」でも、胃がん、乳がん、肺がんなどでは具体的な状態が異なります。また、白血病や一部の脳・脊髄腫瘍などでは、一般的なTNM分類とは異なる方法が使われます。
参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス「UICC TNM分類」
更新・確認日:2026年3月6日
T=原発巣の大きさ・広がり・深さ、N=領域リンパ節への転移、M=遠隔転移の有無として病期を分類する国際的な方法です。
ステージ0〜IVは何を意味する?
多くの固形がんでは、がんの広がりをステージ0からIVなどで表します。
| ステージ |
大まかな考え方 |
| ステージ0 |
異常な細胞が発生した場所の表層などにとどまっている段階。上皮内がんなどが含まれる場合があります。 |
| ステージI |
比較的、原発部位に限局している段階。具体的な基準はがんの種類によって異なります。 |
| ステージII |
ステージIより、原発腫瘍や周囲への広がりなどが進んだ段階。具体的な基準はがんの種類によって異なります。 |
| ステージIII |
原発腫瘍や領域リンパ節などへの広がりがさらに進んだ段階。具体的な基準はがんの種類によって異なります。 |
| ステージIV |
多くの固形がんでは、離れた臓器などへの遠隔転移が確認される段階。 |
これはあくまで全体像を理解するための大まかな説明です。
実際には、がんの種類ごとに細かな基準があり、ステージIでもIA・IB、ステージIIIでもIIIA・IIIB・IIICなど、さらに細かく分けられる場合があります。
そのため、「ステージIIだから必ずこうなる」「ステージIVだからすべて同じ状態」という考え方はできません。
がんの種類、発生した場所、遺伝子や分子の特徴、年齢、全身状態、治療への反応などによっても状況は異なります。
「ステージ」と「グレード」は別のもの
もう一つ、混同されやすいのがステージ(stage)とグレード(grade)です。
ステージは、主に「がんが体の中でどこまで広がっているか」を示します。
一方、グレードは、採取したがん細胞や組織を顕微鏡で観察し、正常な細胞とどの程度違って見えるかなど、がん細胞や組織の特徴を評価する考え方です。
覚えておくと分かりやすい違い
ステージ=がんの「広がり」を見る
グレード=がん細胞・組織の「特徴」を見る
がんの種類によっては、ステージだけでなくグレードや遺伝子・分子の特徴なども、治療方針を考える際の重要な情報になります。
日本ではどのがんが多い?最新統計から見る
では、日本では実際にどの種類のがんが多いのでしょうか。
ここからは、国立がん研究センター「最新がん統計」の公表データをもとに見ていきます。
この章で使用する日本の統計
出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター「最新がん統計」
がん罹患:2023年データ
がん死亡:2024年データ
統計ページ更新・確認日:2026年7月14日
※「罹患」とは、新たにがんと診断されることを意味します。
※罹患データと死亡データでは対象年が異なるため、本記事でも年を明記して紹介します。
日本では年間約99万件のがんが新たに診断されている
国立がん研究センターの全国がん登録によると、2023年に日本で新たに診断されたがんは993,469例でした。
内訳は、男性556,059例、女性437,406例です。
一方、人口動態統計によると、2024年にがんで死亡した人は384,111人で、男性221,786人、女性162,325人でした。
ここで注意したいのは、「新たに診断された症例数」と「がんで死亡した人数」は別の統計だということです。
がんは種類によって罹患数、進行の特徴、治療方法や経過などが異なるため、「罹患数が多いがん=死亡数も最も多いがん」ではありません。
「日本人の2人に1人ががんになる」は現在もおおむね正しい
同じ国立がん研究センターの統計では、2023年のデータに基づく生涯がん罹患リスクは、
-
男性:61.1%(約2人に1人)
-
女性:50.1%(約2人に1人)
とされています。
つまり、「日本人の約2人に1人が一生のうちにがんと診断される」という表現は、現在の最新統計でもおおむね当てはまります。
一方で、以前よく使われていた「日本人の3人に1人ががんで死亡する」という表現は、現在の最新統計とは合いません。
2024年データに基づく生涯がん死亡リスクは、
-
男性:24.4%(約4人に1人)
-
女性:17.2%(約6人に1人)
となっています。
統計は人口構成、がんの発生状況、診断や治療を取り巻く環境などによって変化していくため、「○人に1人」という数字を見る場合には、どの年の統計に基づいているのかを確認することが大切です。
2023年、日本人男性で新たに診断されたがんの上位
2023年の罹患数を男性で見ると、上位5種類は次のようになっています。
日本人男性|がん罹患数の順位(2023年)
- 前立腺がん
- 大腸がん
- 肺がん
- 胃がん
- 膵臓がん
以前の日本では胃がんが非常に多く、「日本人男性に最も多いがん=胃がん」というイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、2023年の罹患数では、男性は前立腺がんが1位となっています。
2023年、日本人女性で新たに診断されたがんの上位
女性では順位が大きく変わります。
日本人女性|がん罹患数の順位(2023年)
- 乳がん
- 大腸がん
- 肺がん
- 胃がん
- 子宮がん
女性では乳がんが最も多く、続いて大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がんとなっています。
男女を合わせた総数では、2023年の罹患数は大腸がんが1位、肺がんが2位、胃がんが3位です。
死亡数の順位は「罹患数」と同じではない
次に、2024年のがん死亡数を見てみましょう。
| 順位 |
男性 |
女性 |
| 1位 |
肺がん |
大腸がん |
| 2位 |
大腸がん |
肺がん |
| 3位 |
胃がん |
膵臓がん |
| 4位 |
膵臓がん |
乳がん |
| 5位 |
肝臓がん |
胃がん |
男性では、罹患数1位の前立腺がんは死亡数の上位5位には入っていません。一方、肺がんは罹患数3位ですが、死亡数では1位です。
女性でも、罹患数では乳がんが1位ですが、死亡数では大腸がん、肺がん、膵臓がんに続く4位となっています。
この違いを見るだけでも、「どれだけ多く診断されているか」と「どれだけ多くの人がそのがんで亡くなっているか」は別の指標であることが分かります。
がんの種類によって、発見されやすい時期、進行の特徴、治療方法などが異なるためです。
日本の最新統計をここまで整理すると
生涯でがんと診断される確率は男女とも約2人に1人
↓
男性で最も罹患数が多いのは前立腺がん
↓
女性で最も罹患数が多いのは乳がん
↓
男女合計では大腸がんが最も多い
↓
罹患数と死亡数の順位は同じではない
では、こうした日本の状況は、ほかの国でも同じなのでしょうか。
次の章では、2023年のNew Zealand Cancer Registryによる最新データを使い、ニュージーランドで多いがんを日本と比較していきます。
日本とニュージーランドを同じ2023年の登録データで比べてみると、共通する部分がある一方で、興味深い違いも見えてきます。
その中でも特に注目したいのがメラノーマ(悪性黒色腫)です。
日本では罹患数の上位にあまり登場しないメラノーマが、ニュージーランドでは男性・女性ともに主要ながんの一つとなっています。
日本とニュージーランドでは多いがんがどう違う?
日本では、大腸がん、肺がん、胃がん、乳がん、前立腺がんなどが多くみられることを紹介しました。
では、同じ2023年の統計でニュージーランドを見ると、どのようながんが多いのでしょうか。
Health New Zealand | Te Whatu Oraが公開しているNew Zealand Cancer Registryの最新データによると、2023年にニュージーランドで新たに登録されたがんは29,719件でした。
男性で登録数が多かった上位3種類は、
- 前立腺がん:4,782件
- メラノーマ:1,881件
- 大腸がん:1,785件
女性では、
- 乳がん:3,878件
- 大腸がん:1,653件
- メラノーマ:1,520件
が上位3種類となっています。
ここで日本人から見ると特に目を引くのが、やはりメラノーマです。
日本の2023年統計では、男性の上位3種類は前立腺がん、大腸がん、肺がん、女性は乳がん、大腸がん、肺がんでした。
一方、ニュージーランドでは、男性でメラノーマが2位、女性でも3位に入っています。
ニュージーランド最新統計の出典
Health New Zealand | Te Whatu Ora「Cancer web tool」
使用データ:2023年 New Zealand Cancer Registry
Cancer web tool最終更新日:2026年7月22日
2023年の新規がん登録数:29,719件
2023年の日本とニュージーランドを比べてみる
日本とニュージーランドで、男女それぞれの上位3種類を並べると違いがより分かりやすくなります。
| 2023年 |
日本 |
ニュージーランド |
| 男性 1位 |
前立腺がん |
前立腺がん |
| 男性 2位 |
大腸がん |
メラノーマ |
| 男性 3位 |
肺がん |
大腸がん |
| 女性 1位 |
乳がん |
乳がん |
| 女性 2位 |
大腸がん |
大腸がん |
| 女性 3位 |
肺がん |
メラノーマ |
前立腺がんや乳がん、大腸がんが多い点には共通する部分がありますが、ニュージーランドではメラノーマの存在感が非常に大きいことが分かります。
また、日本では胃がんが男女とも罹患数の上位に入っていますが、ニュージーランドでは上位3種類には入っていません。
同じ「がん」という病気でも、暮らす国によって多くみられる種類の構成には違いがあるのです。
ただし、この比較だけを見て「日本ではこのがんになりやすい」「ニュージーランドではこのがんになりやすい」と個人レベルで判断することはできません。
人口の年齢構成や民族構成、遺伝的背景、生活習慣、感染症の状況、環境、検診や診断の受け方などが国によって異なるためです。
また、今回は比較しやすいように両国とも2023年の登録データを使用していますが、統計の集計方法や人口構成そのものは同一ではありません。そのため、ここでは罹患率の単純な優劣ではなく、「それぞれの国でどの種類のがんが多く診断されているのか」を見るための比較として紹介しています。
NZのがん登録ではメラノーマが約10%
ニュージーランド政府のがん対策機関Te Aho o Te Kahu | Cancer Control Agencyが2025年12月11日に公表した「The State of Cancer in New Zealand 2025」では、2018〜2022年に診断されたがんの構成もまとめられています。
同報告では、前立腺がん16%、乳がん13%、大腸がん12%に続き、メラノーマが10%を占めています。
つまり、単年度の2023年統計だけではなく、複数年をまとめたデータを見ても、メラノーマはニュージーランドにおける主要ながんの一つです。
ニュージーランドのがん登録を見るときの注意点
New Zealand Cancer Registryでは、基底細胞がんや扁平上皮がんなどの非メラノーマ皮膚がんは登録されていません。
そのため、ここで紹介している「メラノーマ10%」は、ニュージーランドで発生するすべての皮膚がんを含めた割合ではなく、New Zealand Cancer Registryに登録されているがんの中での構成割合です。
参考情報
Te Aho o Te Kahu | Cancer Control Agency
「The State of Cancer in New Zealand 2025」
公表日:2025年12月11日
主ながんの構成割合:2018〜2022年データ
ニュージーランドで目立つ「メラノーマ」とは?
では、ニュージーランドの統計にたびたび登場するメラノーマ(melanoma)とは、どのようながんなのでしょうか。
日本語では一般に悪性黒色腫と呼ばれます。
メラノーマは、皮膚などに存在するメラノサイトという細胞から発生するがんです。
メラノサイトはメラニンという色素をつくる細胞で、皮膚などに存在しています。
メラノーマの多くは皮膚に発生しますが、「皮膚がん=すべてメラノーマ」ではありません。
皮膚がんには、メラノーマのほかにも基底細胞がんや扁平上皮がんなどがあります。
ほくろとメラノーマは同じものではない
メラノーマについて調べると、「ほくろ」という言葉をよく目にします。
普通のほくろがあるからといって、それだけでメラノーマということではありません。
ただし、既存のほくろや皮膚の斑点について、
- 形が左右非対称になってきた
- 境界が不規則になった
- 色にばらつきが出てきた
- 形・色・大きさ・質感などが変化している
- 出血、かゆみ、痛みなどがみられる
- これまでなかった新しい斑点が現れた
といった変化がある場合には、自己判断だけで済ませず医療機関で確認することが大切です。
こうした変化があれば必ずメラノーマというわけではありません。Te Aho o Te Kahuも、皮膚に新しい変化や気になる病変がある場合には、医師へ相談するよう案内しています。
ニュージーランドは世界でもメラノーマが多い国の一つ
「The State of Cancer in New Zealand 2025」では、ニュージーランドはオーストラリアと並び、世界でもメラノーマの罹患率が非常に高い国の一つとされています。
同報告では、ニュージーランドのメラノーマの95%を超えるケースが、太陽光による紫外線(UV)への曝露と関連するとしています。
また、ニュージーランド国内でも集団によって罹患率には大きな違いがあり、European/otherに分類される人々で特に高く、男性や高齢者でも多いことが報告されています。
つまり、「ニュージーランドに住んでいれば誰でも同じようにメラノーマになりやすい」ということではなく、紫外線への曝露、肌の性質、年齢、過去の日焼け歴、遺伝的背景など、複数の要因を考える必要があります。
ニュージーランドの紫外線はなぜ強い?
ニュージーランドで生活したことがある方なら、「日本より日差しが強く感じる」と思った経験があるかもしれません。
ニュージーランド環境省(Ministry for the Environment)は、ニュージーランドの夏のピーク時のUVは、同程度の緯度にある北半球の地域と比べて約40%高いと説明しています。
割合で表すと、およそ1.4倍に相当します。
主な理由として、
- 南半球の夏には地球が太陽に比較的近いこと
- ニュージーランド上空の夏のオゾン層が、北半球の同程度の緯度にある地域の夏より薄いこと
- 大気が比較的きれいで、UVを散乱・吸収する大気中の微粒子などが少ないこと
などが挙げられています。
「日本の何倍?」についての注意点
ニュージーランド環境省が示している「約40%高い=約1.4倍」という数字は、東京とオークランドなど、日本の特定都市とニュージーランドの特定都市を直接比較した数字ではありません。
同程度の緯度にある北半球の地域と比較した、夏のピークUVについてのデータです。
UVの強さは季節、時刻、緯度、標高、雲、オゾン量などによって大きく変化するため、「ニュージーランドの紫外線は常に日本の1.4倍」という意味ではありません。
紫外線についての参考情報
New Zealand Ministry for the Environment
「New Zealand’s UV levels」
掲載:2021年3月
ニュージーランドの夏のピークUVは、同程度の緯度にある北半球地域より約40%高いと説明されています。
※この数値は同ページが引用するMcKenzieらの研究(2006年)に基づいています。
こうして日本とニュージーランドのがん統計を比べてみると、メラノーマがニュージーランドで主要ながんの一つになっている背景を考えるうえで、紫外線環境が重要な要素の一つであることが分かります。
ただし、国によるメラノーマ罹患率の違いを紫外線だけで説明することはできません。
肌の色や遺伝的背景、年齢、過去の日焼け歴、屋外活動、紫外線対策、人口構成など、複数の要因が関係します。
がんの主なリスク要因とは?
「なぜがんになるのか?」という疑問に対して、「この一つが原因です」と答えられるケースばかりではありません。
多くのがんでは、加齢、生活習慣、環境、感染、遺伝的な要因など、複数の要素が関係しています。
そのため、がんについて考えるときには「原因」よりも「リスク要因」という言葉がよく使われます。
リスク要因があるからといって必ずがんになるわけではなく、反対に、分かっているリスク要因がほとんどない人でもがんになることがあります。
年齢
がん全体で見ると、年齢は重要なリスク要因の一つです。
年齢を重ねるにつれて、細胞にはさまざまな遺伝子変化が蓄積する機会が増えるため、多くのがんは高齢になるほど罹患率が高くなります。
ただし、若い世代ではがんにならないという意味ではありません。がんの種類によって、罹患しやすい年代には違いがあります。
たばこ
喫煙は、がんとの関係が明確に確認されている代表的なリスク要因です。
肺がんだけではなく、口腔・咽頭、喉頭、食道、胃、膵臓、膀胱など、さまざまながんとの関係が知られています。
本人の喫煙だけでなく受動喫煙にも健康への影響があるため、国立がん研究センターの「日本人のためのがん予防法」でも、たばこを吸わないことや他人のたばこの煙を避けることが重要な項目として挙げられています。
飲酒
飲酒量と一部のがんのリスクとの関係についても、多くの研究があります。
口腔・咽頭、食道、肝臓、大腸、乳房などのがんとの関連が知られており、がんのリスクという観点からは、飲酒量を少なくすることが基本になります。
食生活・身体活動・体重
食生活、身体活動、体重も、一部のがんの発生リスクとの関係が研究されています。
ただし、「この食品を食べればがんにならない」「この食品を食べたからがんになった」と、一つの食品だけで判断することはできません。
国立がん研究センターでは、こうした生活習慣や感染について、「日本人のためのがん予防法(5+1)」として整理しています。具体的な内容は次の章で紹介します。
ウイルスや細菌などの感染
一部のがんでは、特定のウイルスや細菌への感染が重要なリスク要因になります。
代表的なものには、
-
ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頸がんなど
-
ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん
-
B型・C型肝炎ウイルスと肝がん
などがあります。
感染した人が必ずがんになるわけではありませんが、感染予防、ワクチン、検査や適切な医療などによって、一部のがんのリスクを減らせる場合があります。
紫外線
紫外線は皮膚がん、特にメラノーマを考えるうえで重要なリスク要因です。
ニュージーランドでは、強い日焼けを避けること、衣服や帽子、日陰などを利用すること、日焼け止めを適切に使用すること、サンベッドを避けることなどのUV対策が推奨されています。
遺伝的な要因
一部のがんでは、生まれつき受け継いだ遺伝子の変化によって、特定のがんになりやすい体質を持つことがあります。
ただし、「家族にがんになった人がいる=自分も必ずがんになる」という意味ではありません。
また、がんの多くは遺伝だけで説明できるものではなく、加齢に伴う遺伝子変化や生活・環境要因なども関係します。
ストレスだけを「がんの原因」と考えない
精神的なストレスと健康についてはさまざまな研究がありますが、「ストレスを感じたことが直接の原因となってがんになった」と単純に結びつけることはできません。
がんと診断された人に対して「ストレスをためたからではないか」「性格が原因ではないか」と考えるのも適切ではありません。
がんにはさまざまな要因が関係しており、個人の病気の原因を一つの生活習慣や心理状態だけに求めることはできません。
リスク要因を考えるときのポイント
リスク要因がある
=必ずがんになる、ではない
リスク要因が見当たらない
=絶対にがんにならない、でもない
がんは多くの場合、複数の要因が関係して発生すると考えられています。
がんは予防できる?検診と早期発見について
「がんにならないためには何をすればよいのか」と考える方は多いでしょう。
ここで最初に知っておきたいのは、現在の医学では、すべてのがんを完全に防ぐ方法があるわけではないということです。
国立がん研究センターでは、「がん予防」を、がんになる可能性をゼロにするという意味ではなく、がんになるリスクを減らすこととして説明しています。
日本人のための「5+1」
国立がん研究センターでは、日本人を対象とした研究をもとに、科学的根拠が確認されている生活習慣や感染への対策を「日本人のためのがん予防法(5+1)」として整理しています。
日本人のためのがん予防法「5+1」
1.たばこ|吸わない・他人の煙を避ける
2.お酒|飲酒量を少なくする
3.食生活|偏りすぎない食生活を意識する
4.身体活動|身体を動かす機会を持つ
5.体重|適正な体重を意識する
+1.感染|がんに関係する感染への対策を行う
大切なのは、これらを実践すれば「絶対にがんにならない」と考えることではありません。
自分で変えることのできるリスク要因について知り、可能な範囲でリスクを減らしていくという考え方です。
参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス
「科学的根拠に基づくがん予防法」
更新・確認日:2026年7月14日
日本人を対象とした研究から「たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重」の5つに「感染」を加えた「5+1」が示されています。
「予防」と「早期発見」は別の考え方
がんについて調べると、「予防」と「早期発見」が一緒に語られることがありますが、意味は異なります。
予防は、がんになるリスクそのものを減らすための取り組みです。
一方、がん検診は、症状のない人を対象に、特定のがんを早い段階で見つけ、がんによる死亡を減らすことを目的として行われます。
検診で「要精密検査」となった場合も、その時点でがんと診断されたという意味ではありません。
詳しい検査を受けて、がんかどうかを確認する必要があります。
日本で国が推奨している主ながん検診
2026年4月1日に更新された国立がん研究センター「がん検診」の情報では、国が推奨する対策型がん検診として、主に次の5種類が紹介されています。
- 胃がん検診
- 大腸がん検診
- 肺がん検診
- 乳がん検診
- 子宮頸がん検診
対象年齢、検査方法、受診間隔はがんの種類によって異なります。また、自治体などによって実施方法が異なる場合もあります。
そのため、「すべての検査を毎年受ければよい」というものではなく、対象年齢や推奨されている方法を確認して受診することが大切です。
がん検診についての参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診」
更新・確認日:2026年4月1日
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんについて、国が推奨する検診方法、対象年齢、受診間隔などが紹介されています。
症状がある場合は「検診」ではなく医療機関へ
もう一つ重要なのは、がん検診は基本的に症状のない人を対象としているということです。
すでに身体に気になる症状がある場合には、次の検診まで待つのではなく、医療機関へ相談することが大切です。
例えば、血便、血痰、しこり、不正出血、長く続く咳、意図しない体重減少など、気になる変化が続いている場合には、その症状に応じて医療機関へ相談してください。
がんを調べるときに知っておきたい言葉
最後に、がんについて初めて調べるときに知っておくと、統計や医療情報を理解しやすくなる基本用語を整理します。
罹患(りかん)・罹患数・罹患率
罹患とは病気にかかることです。罹患数は新たに診断された症例数、罹患率は一定の人口の中でどの程度新たながんが発生したかを示します。
国や地域を比較するときには、人口規模だけでなく年齢構成の違いもあるため、人口10万人あたりの罹患率や年齢調整罹患率などが使われます。
死亡数・死亡率
死亡数はそのがんを原因として亡くなった人の人数、死亡率は一定の人口あたりで、そのがんによって亡くなった人の割合を示します。
原発・転移・再発
原発はがんが最初に発生した場所、転移はそこから別の場所へがんが広がること、再発は治療後にがんが再び確認されることを指します。
ステージ
ステージは、がんの広がりを表す指標です。具体的な分類方法はがんの種類によって異なります。
5年生存率
「5年生存率」という言葉を見ると、「5年間しか生きられない確率」のように感じる方もいるかもしれませんが、これは誤解です。
5年生存率は、がんと診断された集団について、診断から一定期間後の生存状況を統計的に表した指標です。
国立がん研究センター「最新がん統計」では、2018年にがんと診断された人の5年相対生存率は、全がん・男女計で64.8%とされています。
ただし、これはすべてのがんをまとめた統計であり、がんの種類、年齢、ステージなどによって数値は大きく異なります。
また、生存率は過去に診断された多くの人のデータから算出された統計であり、一人ひとりの余命を示す数字ではありません。
生存率についての統計
国立がん研究センター「最新がん統計」
更新・確認日:2026年7月14日
2018年診断例の5年相対生存率:全がん・男女計64.8%
※がんの種類、年齢、病期などによって生存率は異なり、個人の余命を示すものではありません。
まとめ|「がん」は一つの病気ではない
がんという言葉は身近ですが、実際には多くの種類があり、発生する細胞や臓器、広がり方によって特徴は異なります。
日本では、生涯のうちにおおよそ2人に1人ががんと診断されますが、どの種類のがんが多いかを見ると、男性と女性でも違いがあります。
さらに2023年の日本とニュージーランドを比較すると、前立腺がん、乳がん、大腸がんが多いという共通点がある一方、ニュージーランドではメラノーマが男性2位、女性3位に入っているという特徴的な違いも見えてきます。
こうした違いには、人口構成、生活習慣、感染、環境、遺伝的背景など、さまざまな要因が関係します。ニュージーランドのメラノーマについては、特に紫外線への曝露が重要なリスク要因として知られています。
がん全体についても、加齢、たばこ、飲酒、食生活、身体活動、体重、感染、紫外線、遺伝的背景など、複数のリスク要因が関係しています。
すべてのがんを完全に防ぐことはできませんが、自分で変えられるリスク要因について知ることや、対象となる年齢で適切ながん検診を利用することは、がんについて考えるうえで大切なポイントです。
また、がんに関する統計を見るときには、数字そのものだけではなく、「何年のデータなのか」「罹患数なのか死亡数なのか」「どの集団を対象にした数字なのか」まで確認すると、その意味をより正しく理解しやすくなります。
【ご注意】
本記事は、がんの種類、発生の仕組み、ステージ、統計、リスク要因、がん検診などについて一般的な情報を紹介することを目的としています。特定の疾病の診断、治療、治癒または予防を目的とするものではありません。
がんの診断や治療方法、検査の必要性は、がんの種類や病期、年齢、健康状態などによって異なります。身体に気になる症状がある場合や、検査・治療について判断が必要な場合には、自己判断せず医師などの医療専門職へご相談ください。
掲載している日本およびニュージーランドのがん統計は、本文中に記載した各公的機関の公表時点・対象年のデータに基づいています。統計は今後更新される場合があります。