「最近なんとなく疲れやすい」「眠りにくい」「緊張すると動悸がする」など、体調について調べていると、「自律神経」という言葉を目にすることがあります。
テレビやインターネットでも「自律神経を整える」「自律神経が乱れている」といった表現がよく使われるようになりました。
しかし、自律神経とはそもそも何をしている神経なのでしょうか。
また、体調が優れないときに、すべてを「自律神経の乱れ」のせいにしてよいのでしょうか。
自律神経は、心拍、血圧、体温調節、消化、発汗など、私たちが普段ほとんど意識しなくても続いている体のさまざまな働きを調節する神経です。
その中心となるのが「交感神経」と「副交感神経」です。
この2つは単純に「どちらか一方が良く、もう一方が悪い」というものではありません。活動するときも、休むときも、その場面に応じて適切に働くことが大切です。
一方、めまい、頭痛、動悸、倦怠感、不眠などは、自律神経以外のさまざまな原因でも起こることがあります。
そのため、症状だけを見て「自律神経が乱れている」と自己判断するのではなく、必要に応じて医療機関へ相談することも重要です。
この記事では、自律神経の基本から、交感神経と副交感神経の違い、「自律神経の乱れ」という言葉の考え方、自律神経失調症、更年期との関係、そして毎日の生活で意識したいことまで、できるだけわかりやすく解説します。
自律神経とは?まず基本を知ろう
私たちの体では、意識していなくてもさまざまな働きが絶えず続いています。
例えば、眠っている間でも心臓は動き、呼吸は続き、体温は一定の範囲に保たれています。
食事をすれば消化が始まり、暑くなれば汗をかくなど、そのときの体の状態や周囲の環境に合わせて多くの機能が調節されています。
こうした働きに深く関わっているのが自律神経系です。
自分の意思だけでは直接コントロールできない神経
手を動かしたり歩いたりするときは、「動かそう」という意思によって筋肉を動かすことができます。
一方、自律神経が関係する働きの多くは、「心拍数を今からこの数字にしよう」「消化を始めよう」「汗を止めよう」と考えて直接操作できるものではありません。
自律神経系は、意識的な操作を必要とせず、体の状態や環境に応じてさまざまな機能を調節しています。
自律神経が関わる主な働きには、
- 心拍数の調節
- 血圧の調節
- 体温調節
- 発汗
- 消化管の働き
- 排尿や排便
- 瞳孔の調節
などがあります。
つまり、自律神経は特定の一つの臓器だけに関係するものではなく、体のさまざまな場所で生命活動を支えるために働いている神経系です。
「自律神経を自分で自由に操る」ことはできない
健康情報では「自律神経をコントロールする」という表現を見かけることがあります。
しかし、自律神経そのものを、自分の意思で自由に切り替えたり操作したりできるわけではありません。
一方で、睡眠、運動、休養、食事、ストレスとの付き合い方など、日々の生活環境は心身の状態に関係します。
そのため、自律神経について考えるときも、「自分で神経を直接操作する」というより、体がそのときの状況に対応しやすい生活環境を整えると考える方が自然です。
自律神経系は大きく、
に分けられます。
美容や健康の記事では、よく
「交感神経=アクセル」
「副交感神経=ブレーキ」
と例えられます。
これは違いを理解するためには便利な表現ですが、実際の体の働きはもう少し複雑です。
交感神経と副交感神経は、それぞれが必要な場面で働きながら、体のさまざまな機能を調節しています。
交感神経は活動や緊急時への対応に関わる
交感神経系は、活動するときや、緊張・危険などに対応するときに重要な役割を担っています。
例えば、緊急の状況に対応するときには、
- 心拍数が増える
- 心臓の収縮力が高まる
- 気道が広がる
- 発汗が増える
- 消化など一部の働きが抑えられる
といった反応が起こります。
これは一般に「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」とも呼ばれ、危険や負荷のある状況へ体が対応するための自然な仕組みです。
そのため、交感神経が働くこと自体を「悪いこと」と考える必要はありません。
仕事、運動、集中が必要な場面などでも、交感神経系は重要な役割を担っています。
副交感神経は休息や消化などに関わる
副交感神経系は、休息しているときや食事・消化など、エネルギーを温存しながら体の状態を維持する働きに深く関わっています。
代表的な働きとしては、
- 心拍数を低下させる方向に働く
- 消化管の働きや分泌を促す
- 排泄に関わる
などがあります。
そのため、「リラックスすると副交感神経が働く」と説明されることがよくあります。
「交感神経が悪く、副交感神経が良い」わけではない
ここは自律神経を理解するうえで、とても大切なポイントです。
「ストレス社会では交感神経ばかりが働くから、副交感神経をできるだけ優位にすればよい」といった説明を目にすることがあります。
しかし、交感神経も副交感神経も、どちらも人が生活するために必要です。
運動するときに心拍数を上げたり、危険な状況へ素早く対応したりすることも重要ですし、食事を消化したり休息したりすることも重要です。
「アクセルとブレーキ」はあくまでイメージ
交感神経=活動・緊急時などへの対応
↓
副交感神経=休息・消化などに関係
↓
どちらも必要で、状況に応じて協調して働いている
つまり、目指すべきなのは「副交感神経をいつも優位にすること」ではなく、そのときの状況に応じて体が適切に対応できることだと考えると分かりやすいでしょう。
「自律神経が乱れている」と感じるのはどんなとき?
「最近、自律神経が乱れている気がする」という表現は日常的によく使われます。
その背景には、
- 忙しい生活が続いている
- 精神的なストレスを感じている
- 十分に眠れていない
- 生活時間が不規則になっている
- 仕事や生活環境が大きく変わった
- 心身の疲労が続いている
などがあるかもしれません。
こうした状況とともに、疲れやすさ、眠りにくさ、胃腸の不快感、動悸、発汗などを感じると、「自律神経が乱れているのでは?」と考える方もいるでしょう。
ストレスを感じること自体は異常ではない
ストレスに直面すると、体がその状況へ対応するためにさまざまな反応を起こします。
例えば、重要な仕事の前や緊張する場面で、心拍が速くなったり、手に汗をかいたりすることがあります。
こうした反応自体は、体に備わった自然な仕組みです。
そのため、交感神経が働くこと=自律神経が乱れているとは限りません。
「昼は交感神経、夜は副交感神経」と単純に分けない
「昼間は交感神経、夜は副交感神経」と説明されることもありますが、実際には両方の神経系が一日の中で常に働き、その活動は状況に応じて変化しています。
例えば、昼間でも食事や休息時には副交感神経系が関わりますし、夜間でも体の状態によって交感神経系の活動が変化します。
自律神経は、スイッチのように片方が完全にオンになり、もう片方が完全にオフになる仕組みではありません。
体調不良をすべて「自律神経のせい」にしない
これは特に重要です。
自律神経について検索すると、
- 頭痛
- めまい
- 動悸
- 倦怠感
- 発汗
- 胃腸の不調
- 眠りにくさ
- 不安感
など、非常に多くの症状が紹介されています。
しかし、これらの症状は自律神経以外の原因でも起こります。
例えば、貧血、甲状腺の病気、心臓や循環器の病気、感染症、睡眠障害、耳の病気、薬の影響、精神的な不調など、さまざまな可能性があります。
そのため、症状があるからといって「原因は自律神経だ」と自己判断することは避けましょう。
長く続いている症状や、日常生活へ影響する症状がある場合には、医療機関で原因を確認することが大切です。
自律神経失調症とは?
「自律神経失調症」という言葉もよく耳にします。
厚生労働省の「こころの耳」では、自律神経失調症について、明らかな身体の病気がないにもかかわらず、自律神経のバランスが崩れていると感じることによる不調を指す言葉として説明しています。
その際にみられることがある不調として、
などが挙げられています。
「交感神経と副交感神経のバランスが崩れた病気」とだけ考えない
自律神経失調症について、
「交感神経と副交感神経のバランスが崩れると発症する」
と単純に説明されることがあります。
しかし、実際の体調不良を考えるときは、それほど単純ではありません。
同じような症状でも原因は人によって異なり、身体的な病気、薬の影響、睡眠、心理的な要因、生活環境などが関係している場合もあります。
だからこそ、先に「自律神経失調症だ」と決めるのではなく、まず他に原因となる病気がないか確認することが重要です。
症状が多いからこそ自己診断に注意
自律神経失調症に関連して紹介される症状は幅広く、一つの症状だけから判断することはできません。
体調不良が続いている場合には、自己判断だけで済ませず、症状に応じて医療機関へ相談しましょう。
特に、急に起きた強い症状や、胸の痛み、強い息苦しさ、失神などを伴う場合には、「自律神経かもしれない」と様子を見るのではなく、早めに適切な医療を受けることが重要です。
女性ホルモン・更年期と自律神経
女性の健康について調べていると、
「更年期になるとホルモンバランスが乱れ、自律神経も乱れる」
という説明を目にすることがあります。
女性ホルモンの変化と自律神経系は無関係ではありませんが、更年期のさまざまな不調を、単純に「自律神経の乱れ」だけで説明することはできません。
更年期とは?
日本産科婦人科学会では、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた約10年間を「更年期」としています。
閉経の時期には個人差がありますが、日本人女性の平均的な閉経年齢は50歳前後とされています。
更年期には、卵巣機能の低下に伴って女性ホルモンの一つであるエストロゲンが大きくゆらぎながら低下していきます。
この時期には、
- ほてりやのぼせ
- 発汗
- めまい
- 動悸
- 疲れやすさ
- 頭痛や肩こり
- 眠りにくさ
- イライラや気分の落ち込み
など、さまざまな変化を感じることがあります。
ただし、これらの症状はすべての人に同じように現れるわけではなく、程度にも大きな個人差があります。
更年期症状はホルモンだけで決まるわけではない
更年期の不調について、「エストロゲンが減ったからすべて起こる」と考えてしまいがちですが、実際にはそれほど単純ではありません。
女性ホルモンの変化に加えて、
- 年齢に伴う身体的な変化
- 睡眠や生活習慣
- 心理的な要因
- 仕事の状況
- 家庭環境
- 人間関係などの社会的な要因
などが複合的に関係することがあります。
そのため、「ホルモンバランスが乱れたから自律神経が乱れた」と一つの原因だけで説明しないことが大切です。
自律神経とホルモンには脳の働きも関係している
自律神経系とホルモンの分泌には、脳の視床下部などが関わっています。
視床下部は、自律神経系だけでなく内分泌系や体温調節など、体のさまざまな機能の調節に関係しています。
そのため、更年期にはホルモンの変化とともに、ほてりや発汗など自律神経系が関係するような症状がみられることがあります。
ただし、ここでも「自律神経のバランスが崩れたから更年期障害になる」と単純に考えるのは避けましょう。
日常生活に支障があるなら婦人科へ相談を
更年期にはさまざまな症状がみられますが、その中でも症状が強く、日常生活へ支障をきたす状態を「更年期障害」といいます。
治療では、生活習慣の見直しに加えて、必要に応じてホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、その他の薬物療法などが検討されます。
また、更年期だと思っていた症状の背景に別の病気が隠れている場合もあります。
つらい症状が続いている場合には、「年齢だから仕方がない」「自律神経のせいだろう」と決めつけず、婦人科などへ相談しましょう。
毎日の生活で意識したいこと
自律神経は、自分の意思だけで直接操作できるものではありません。
そのため、
「これをすれば副交感神経が優位になる」
「この食べ物で自律神経が整う」
といった一つの方法だけに頼る必要はありません。
睡眠、運動、食事、休養など、心身の健康を支える基本的な生活習慣を無理なく続けることを大切にしましょう。
睡眠時間だけでなく生活リズムも意識する
忙しい日が続くと、睡眠時間が短くなったり、寝る時間と起きる時間が大きく変化したりすることがあります。
睡眠不足が続けば、日中の眠気、集中しにくさ、疲労感などにつながることがあります。
睡眠については、
- 自分に必要な睡眠時間を確保する
- できる範囲で規則的な起床・就寝時間を意識する
- 寝る直前まで仕事や作業を続けすぎない
- 眠りやすい環境を整える
といった基本から考えてみましょう。
「何時から何時まで眠れば自律神経が整う」といった、すべての人に共通する特別な時間帯があるわけではありません。
適度に体を動かす
運動や身体活動は、健康を維持するための基本的な生活習慣の一つです。
必ずしも激しい運動をする必要はなく、
- 歩く時間を増やす
- 軽いストレッチをする
- 無理のない範囲で体を動かす
- 長時間座ったままになる時間を減らす
など、自分の体力や生活に合わせて取り入れる方法があります。
「運動すれば自律神経が正常化する」と考えるのではなく、体力、睡眠、気分転換などを含めた健康的な生活づくりの一部として考えましょう。
特別な「自律神経に良い食べ物」を探さない
インターネットでは、
「自律神経を整える食べ物」
「副交感神経を高める栄養素」
といった情報を見かけることがあります。
しかし、一つの食品や栄養素を摂っただけで自律神経系が理想的な状態になるというものではありません。
日々の食事では、
- 主食
- たんぱく質を含む食品
- 野菜や果物
- さまざまな食品から摂るビタミンやミネラル
などを組み合わせ、食事全体のバランスを考えることが基本です。
サプリメントについても、特定の製品だけで自律神経の不調を治療したり、交感神経と副交感神経を調整したりできると考えないようにしましょう。
アルコールを「眠るため」に頼りすぎない
お酒を飲むと眠くなるため、「寝つきを良くするために飲んでいる」という方もいるかもしれません。
しかし、アルコールは睡眠の状態へ影響することがあります。
睡眠のために飲酒量が増えている場合や、お酒がないと眠れない状態になっている場合には注意が必要です。
また、飲酒量が多い状態が続いている場合には、自分だけで抱え込まず、医療機関などへ相談することも検討しましょう。
ストレスを「なくす」のではなく、自分の変化に気づく
人が生活している限り、ストレスを完全になくすことは難しいものです。
仕事、家庭、人間関係、引っ越し、転職など、悪い出来事だけでなく、大きな環境の変化そのものが負担になることもあります。
大切なのは、
- 最近眠れているか
- 食事はとれているか
- 疲れが抜けにくくなっていないか
- 気持ちに余裕がなくなっていないか
- 仕事や日常生活へ影響が出ていないか
など、自分の状態の変化に気づくことです。
休息やリラックスも「自律神経を操作するため」と考えなくてよい
入浴、音楽、読書、軽い運動、深呼吸など、自分が心地よいと感じる時間を持つことは、気分転換や休息につながります。
しかし、
「この呼吸法なら副交感神経が○倍になる」
「○分入浴すれば自律神経が整う」
といった細かなルールを作る必要はありません。
自分にとって無理なく続けられ、落ち着いて過ごせる方法を見つけることが大切です。
毎日の健康管理をシンプルに考えると
必要な睡眠を確保する
↓
無理のない範囲で体を動かす
↓
バランスのよい食事を心がける
↓
休息する時間をつくる
↓
不調が続くときは無理をしない
症状が続くときは医療機関へ相談を
頭痛、めまい、動悸、疲労感、不眠、胃腸の不調などには、自律神経以外にもさまざまな原因が考えられます。
症状が続いている場合には、「ストレスだから」「自律神経だから」と決めつけず、原因を確認することが大切です。
特に早めの受診を考えたい症状
例えば、
- 動悸が繰り返し起こる、または長く続く
- 強いめまいやふらつきが続く
- 失神した、または意識が遠のくことがある
- 胸の痛みや強い息苦しさがある
- 突然の強い頭痛がある
- 手足の動かしにくさやしびれなどが突然現れた
- 不眠が長く続き、日常生活に大きく影響している
- 強い気分の落ち込みや意欲低下が続いている
といった場合には、医療機関へ相談し、原因を確認しましょう。
特に突然の強い胸痛、強い呼吸困難、失神、突然の激しい頭痛、体の片側が動かしにくいなどの症状がある場合には、緊急性の高い病気の可能性もあるため、速やかに医療機関へ相談してください。
症状に応じて相談する診療科は変わる
「自律神経の不調は何科へ行けばいいの?」と迷う方もいるでしょう。
症状によって適した診療科は異なります。
例えば、
- 動悸や胸の症状が中心なら内科・循環器内科
- めまいや耳鳴りが中心なら耳鼻咽喉科
- 更年期と思われる症状なら婦人科
- 不安や気分の落ち込み、不眠などが強い場合には心療内科や精神科
などが選択肢になります。
どこへ相談すればよいか分からない場合には、まずかかりつけ医や内科へ相談し、必要に応じて適切な診療科を紹介してもらう方法もあります。
「原因が見つからない=気のせい」ではない
検査を受けても明らかな原因が分からない場合、「気のせいなのでは」と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、本人が感じているつらさまで否定されるものではありません。
症状が続いている場合には、その程度や現れるタイミング、生活への影響などを医師へ伝えながら、必要な対応を一緒に考えていくことが大切です。
まとめ|「自律神経」という言葉だけで体調を決めつけない
自律神経系は、心拍、血圧、体温調節、発汗、消化など、私たちが意識しなくても続いている体のさまざまな働きを調節しています。
その中心となる交感神経と副交感神経は、どちらか一方が良い・悪いというものではなく、状況に応じてそれぞれ必要な働きをしています。
自律神経について考えるときに覚えておきたいのは、
- 交感神経が働くこと自体は悪いことではない
- 副交感神経を常に優位にする必要はない
- 自律神経を意思だけで自由に操作することはできない
- 体調不良の原因をすべて自律神経と決めつけない
- 睡眠、運動、食事、休養など基本的な生活習慣を大切にする
- 症状が続く場合には医療機関へ相談する
という点です。
また、更年期には女性ホルモンの変化だけでなく、年齢に伴う身体変化、心理的要因、家庭や仕事などの社会的要因が複合的に関係することがあります。
「自律神経を整えなければ」と必要以上に意識するよりも、まずは自分の睡眠、食事、活動量、休息、ストレスの状態を振り返り、無理のない健康管理を続けていきましょう。
そして、気になる症状が長く続いたり、日常生活へ支障が出たりしている場合には、自己判断だけで済ませず、医療機関で原因を確認することが大切です。
【ご注意】
本記事は、自律神経、交感神経・副交感神経、ストレス、睡眠、更年期、生活習慣などについて一般的な情報を紹介することを目的としています。疾病の診断、治療、治癒または予防を目的としたものではありません。
体調に気になる変化がある場合や、症状が続く・悪化する場合には、自己判断せず医師などの医療専門家へご相談ください。